司法試験の勉強で陥りがちな罠3つ【完璧主義・暗記偏重・正解主義】

司法試験の勉強は、【質×量】です。量がどんなに多くても、質が悪いといつまで経っても合格には辿り着けません。
今回は、過去の僕の体験含む多くの受験者が陥りがちな【罠=質の悪い勉強】について、なぜ【罠】なのかどうすれば【罠】を回避できるのか詳述しました。
【罠】を避け、ぜひご自身の学習に役立ててください!

罠その1:完璧主義(完璧に理解・暗記できるまで先に進まない、問題を解かない)

完璧主義とは、「完璧に理解・暗記できるまで先に進まない、問題を解かない」主義を指します。

「分からなければ、まぁいいか」の精神が大切

この主義の金科玉条は分からなければ、分かるまでやろうです。

ですが、推奨したいのは「分からなければ、まぁいいか」の精神です。

確かに、「分からない」ものを「分かろうとする」事は学習の基本です。また、「分からない」が「分かる」になるのは、成長している感があり楽しいです。そのため、完璧主義に陥る方は少なくありません。

ですが、法律学はとっっっっっても難しいんですよ。初学者が完璧に理解するなんて、現実的にほぼ不可能なんです。
また、分からない事があっても、当該分野を一周した後に見返すと豊富な具体例を学んでいたり、思考方法が身についているため、意外なほど簡単に理解できる、というのがザラです。
それにもかかわらず、初学のうちから「分かるまでやろう」という姿勢で学習をしていては、前に進めず具体例や思考方法が身につかないため、かえって非効率的。

そこで必要なのが、「分からなければ、まぁいいか」の精神。
分からない事に対しては、メリハリをつけて(時間を決めて)何がわからないか考えます。また、環境があれば質問をするのもいいでしょう。
それでも分からなければ、「一周学んで戻ってくる頃には分かるだろう」と割り切って先に進んでしまいましょう。この時、分からなかったところに、?マークを書いておいたり、何がなぜ分からないのか、自分なりに考えた事をメモしておくと、一周学んで戻ってきた時のメリハリのついた学習に資するためオススメです。

そうはいっても、性格的にうまく割り切れず「『まぁいいか』なんて思えません!」という方は少なからずいらっしゃると思います。それでも、効率的な学習のためには、少しずつ「完璧主義」を手放す必要があります。
そのような方には、「全ての事項について完璧に分かるまでやろう」とするのでなく、「一部分・分かるところだけ完璧に復習して理解することにしよう」と、完璧主義を一部分だけ発揮して、それ以外には目を瞑るという考え方も一つ手です。

「分からないからこそ、問題を解こう」の精神で効率アップ!

完璧主義の方は、「理解してから、問題を解こう」と考えがちです。その結果、いつまで経っても問題を解きません。すると、皮肉なことにいつまで経っても「理解」ができないのです。

大切なのは、「分からないからこそ、問題を解こう」の精神です。
問題には、抽象的な法規範を理解する上で不可欠な具体例が盛りだくさんのため、問題を解くことで既知・未知問わず法概念の理解が深まります。「理解してから問題を解く」のではなく、「問題を解きながら理解をしていく」のが王道の勉強法なのです。 
また、司法試験・予備試験合格に必要な考え抜く能力は、分からない問題を解く中でしか身につきません。
さらに、問題を解いて「分からない、悔しい」という感情は、記憶定着にも役立ちます。 
そして、頻出分野が取り扱われている問題を解いて基本書に戻る学習は、試験対策としてメリハリがついて効率的と言えます。

正直言って、「分からない問題を考え抜く」のは初学者にはキツイです。
ですが、簡単な問題(短答過去問を論文形式で解く等)からでもいいので、「分からないからこそ、問題を解こう」の精神を持って、果敢に問題に取り組んでみてください!

罠その2:暗記偏重(自分の頭で考え抜くより先に暗記しようとする)

暗記偏重とは、「自分の頭で考え抜くより先に暗記しようとする」ことを指します。

「覚えなくても考えられる」よ!

暗記偏重の方の金科玉条は「覚えないと考えられない」です。

ですが、本当は「覚えなくても考えられる」のです。

「考えるためには、前提となる知識が必要です。最低限の知識がないと、考えることもできませんよ」というアドバイスは、一見正しそうに聞こえます。ですが、注意が必要。

例えば、
37×28=1036
この答えを「覚えていない」と、
(37×28)×2が「考えられない」のでしょうか?

そんなことありませんよね。
かけ算の仕組み・計算方法すなわち【考え方の型】を理解していれば、一つ一つのかけ算の答えを「覚えてなくても」、具体的な問題を「考えて答えを導くことができる」のです。

法律学も同じです。
法律学における【考え方の型】を理解していれば、論証等を覚えていなくても」「考えて答えを導くことができる」のです。

「覚えてなくても考える」ための【考え方の型】とは

法律学における【考え方の型】とは、

いわゆる答案の型(法的三段論法、権利発生の可否、憲法の三段階審査論等)と、
分からない問題を考え抜く方法(結論をでっち上げる、理由をでっち上げる、反対の結論と理由をでっち上げ、どちらか説得的か比較する)
が挙げられます。

これらを理解していれば、どんな問題にも一応は自分の頭で考えることができます

答案の型についてはこちらの記事

分からない問題を考え抜く方法についてはこちらの記事

で、それぞれ解説しています。これらをご参照の上、暗記偏重を脱しましょう!

「覚えていると考えやすい」のは確か。けれど・・・

そうはいっても、重要論点の具体的な論証や、規範の重要なキーワード当てはめのポイント等は「覚えていると考えやすい」ですよね。
だからと言って「はじめのうちは、覚えてから考えよう」と暗記偏重の学習を始めるのは、とても危険です。

分からないとすぐに解答・答案例を見る癖はなかなか抜けません。何年も勉強をしていても、「この答え忘れちゃったな…答案例見よう」と言った学習を続けてしまっている人は意外に多くいます(お恥ずかしながら、僕も4年以上そうでした。一橋ロー在学中のほとんどの期間で暗記偏重の学習をしており、後悔しています)。
その結果、司法試験で必要な、知識が不十分・未知の問題に対し考え抜いて説得的に答える思考力が磨かれず、いつまで経っても合格に近づくことができなくなります。

むしろ、考え抜いて悩んだり、間違えて恥ずかしい思いをした知識は、感情が大きく動くため覚えやすいです。

そのため、「覚えると考えやすい」ではなく、「考えると覚えやすい」の精神を持った学習がオススメです。

罠その3:正解主義(勉強方法にはたった一つの正解があると信じる)

正解主義とは、「勉強方法にはたった一つの正解があると信じる」主義を指します。

「正解主義」の時代は終わった。「最適主義」を身につけよう

結論から申し上げますと、各人に最も適した勉強方法=「最適な勉強方法」は人それぞれです。

それもそのはず。

例えば、勉強時間について。18歳まで遊び呆けていた学生が、いきなり1日8時間勉強する生活なんて続けられないですよね。一方で、東大に現役で入った大学1年生にとって、1日8時間の学習は慣れたものでしょう。
私も長時間の勉強は本当に苦手でした。無理して一日中勉強をしても、一日が過ぎるごとに「何のために生きてるんだろ…」と落ち込んでました。 一方で、一日中勉強をして「今日も頑張ったな!」と達成感を感じる方もいますよね。

勉強方法についても同様です。テストに受かるための効率的な勉強方法を採り、結果がすぐに出て楽しくて仕方ない人もいれば、学問研究はいくらでもできるけれど、無味乾燥な試験対策にはアレルギー反応を示してしまう人もいます。

すなわち、人は

  • 才能(いわゆる、地頭の良さ)
  • 性格(何が性に合っているか)ないし価値(自分の人生をどうしたいと望んでいるか)
  • 能力(どれだけ努力してきたか、ないしどれだけ努力できるか)
  • 知見(勉強の前提となる知識・経験がどれだけあるか)
  • はたまたその日の気分状態etc.

に応じて、どのような勉強方法ができるか、続けられるかは異なります
すなわち、「最適な勉強方法」は人それぞれです。

「最適な勉強方法」を身につけるには、

  • 人から話を聞いて真似をしたり、本を読んだりして情報収集した色んな勉強方法を試す
  • 試した結果を分析して、うまくいった方法を続ける・自分なりにアレンジする
  • うまくいかなかった場合、その理由を分析して別の方法を試す

といった方法が参考となるのではないでしょうか。ポイントは、とにかく試すことやる前から諦めて、自分の非効率的な学習方法を手放せない人は意外と多いです。
ですが、これはもったいないです。試さないと自分の勉強方法が「最適」かどうかはわかりません。今までやってきた勉強方法を続けることは安心するものですが、時には勇気を出してエイヤっと別の勉強方法を続けてみてはいかがでしょうか。

「正解主義」的なアドバイスに振り回されない! 勉強方法のアドバイス【4パターン】とその特性を分析してみた

いろんな勉強方法をとにかく試すためには、勉強方法の情報を収集する必要があります。

巷には、「これをすれば必ず〇〇!」と言った、断定調のアドバイスが溢れかえっています。
こういった発信はキャッチーで人の目を惹きつける上では効果的なため、様々なところで用いられます。ですが、こういった断定調の、いわば「正解主義」的なアドバイスを鵜呑みにしてはいけません。
「正解主義」的なアドバイスに振り回されないために、一歩引いてそれぞれのアドバイスがどのような背景に基づくものか、そしてその特性を見ておきますと…

①自分ができたから

自分が上手くいったから、この方法が正しい!調の主張があります。
先に話した通り、人それぞれ最適な勉強方法が異なるため、読者にも当てはまるかは未知数です。

もっとも、成功者のアドバイスは迫真的であり、勉強のやる気を生み試すモチベーションが上がりやすい気がします。
やる気をもらったら即真似してみるのも一つの手です。

②多くの人ができた(と言っている)から

多くの人が上手くいったから、この方法が正しい!調の主張は、あたかも真実味を帯びます。
ですが、自分にも当てはまるかはわかりません。また、「言っている」だけで、実は長期的には上手くいっていない場合もあります。
試してダメだったからといって、落ち込む必要はありません。

ちなみに、この記事含む当サイトの「勉強方法のアドバイス」は「自分ができた」「知り合いも同じ方法でできた(と言っている)」ことを分析し、体系化した情報に基づくアドバイスになります。

③統計的エビデンスがあるから

近年、「〇〇大学の実験結果によると…」といった統計的エビデンスに基づく主張が現れています。
統計の質は様々ですが、「多くの人ができた(と言っている)」よりは汎用性が高いでしょう。
もっとも、あくまで統計は比較して有意差(比較対象との結果の差が誤差の範囲を超える)があるか否かの問題であり、万人に100パーセントの結果を保証するものではないことに注意が必要です。

当サイトの「継続方法のアドバイス」については、統計的エビデンスをベースに自分が実践して上手くいった方法を分析し、体系化したものになります。

④生理学的エビデンスがあるから

人間の脳をはじめとした諸器官の働きを研究した生理学ベースのアドバイスは、統計以上に説得的です。(当サイトでは、暗記方法の記事については、生理学的エビデンスを意識した記事となっております。)

ですが、人体に個体差がある以上、これもまた万人に100パーセントの効果を保証するものではないです。
また、学問的エビデンスがあっても、その情報の取捨選択説得の過程では作成者の恣意が混入する可能性を否定できません。

〜〜〜

以上の通り、絶対に万人に当てはまる勉強方法のアドバイスはありません(仮にあるとすれば、電気信号で脳を直接弄るようなヘルメットとかですかね…? いずれにせよ、現時点では存在していません)。

様々なアドバイスを、その特性を意識しつつ試してみるのが、現時点で最も効率的な「最適な勉強方法」を見つける手段でしょう。

終わりに:3つの罠に引っかかった自分

「3つの罠」なんて偉そうに書きましたが、これらはすべて自分がつまづいた事になります。

僕の勉強の軌跡を振り返ると…
伊藤塾の基礎マスター(基礎講座)は、半年で一周するも、ろくに復習をせず、問題も解かずに終えてしまいました。そのため、論文マスター(旧司法試験の過去問題を用いた論文講座)に歯が立ちませんでした。
今なら、そこから一問一問食らいついていくのが良いと思っています。ですが、当時の僕がとった行動は、「基礎マスター講義をもう一周すること」でした。「分かるまで問題を解かない」という完璧主義の発想です。そして、学習を始めて1年半もの間、論文問題をほとんど解かない非効率的な学習を続けていました。

その結果、暗記偏重で論文嫌いの学生の出来上がり。法科大学院まではなんとか入れましたが、その後の成績は一向に伸びず。

また、法科大学院の同期は大変な努力家揃いでした。僕は、超ストイックな彼らの勉強スタイルに憧れ、身の丈が合わないにもかかわらず真似をしようとしてはうまくいかずに落ち込む…の繰り返しでした。

僕が3つの罠に気づいたのは、法科大学院を修了する直前でした。正直、学習開始時にこれを知っていたら、どれだけよかったか…と思います。ですが、長くこれらの罠に引っかかっていたからこそ、このような記事を書くことができました。考える時間は辛くも楽しいものでしたので後悔はありません。

最適な勉強方法は、試しては分析の繰り返し。一朝一夕で身につくものではありません。ですが、努力を続ければ必ず最適に近づいていくはず
この記事が、読者の皆様が最適な勉強方法を身につけ、そして磨き続ける一助になればと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました!