分からない問題に出会ったときの方程式【自分の頭で考え抜く方法】

司法試験・予備試験の勉強をしていると、必ず分からない問題に出会いますよね。
未知の問題や、知識が不十分な問題。そんな分からない問題を、「自分の頭で考えろ!」なんて言われていも、どう考えていいのかも分かりません。そのため、暗記偏重の学習となってしまい、合格が遠のいてしまう……
そうした経験が、僕はよくありました。
このような悔しい思いをしないよう、できる人が「自分の頭で考え抜く」時に、どのようなことを考えているのかを分析してみました。すると、一定のパターンがあることに気づいたのです。
今回は、分からない問題に出会ったときの効果的な「自分の頭で考え抜く」方程式について話します。

なぜ「自分の頭で考え抜く」必要があるのか

司法試験・予備試験の初学者の方は、①未知の問題や、②知識が不十分な問題について「自分の頭で考え抜く」必要性についてイメージしにくいかもしれません。

「⓵未知の問題をなくすために、知識をすべて記憶してしまえばいいのではないか?

「②知識が不十分な問題があるのはまずいから、学んだことは全て完璧に理解して記憶しなければならないのでは?」

このように考えて、暗記偏重の学習をしてしまう方は多いのではないでしょうか。僕もその一人でした。

ですが、このような考えには注意が必要です。

まず、①未知の問題をなくすことはできません。法律学は社会科学であり、社会の変動に合わせて不断に新しい未知の問題が発生します。そして、法律実務家は未知の問題に対して自分の頭で考えて、説得的な解決策を生み出さなければなりません。
したがって、実務家登用試験である司法試験の問題は、実務家としての素養を確認するべく、社会で発生している新しい未知の問題を基礎に問題が作られます。そして、司法試験に合格するためには、未知の問題を自分の頭で考える能力が必要になるのです。

また、②知識が不十分な問題があっても、司法試験には合格できます。
実際のところ、基礎知識を完璧に理解・記憶して受験に臨まれている人は合格者の中でも一握りでしょう。それ以外の合格者の大半は、知識が不十分な問題に対し、「自分の頭で考え」て、ある程度説得的な論述をして、合格水準に達しているのです。

このように、未知の問題や、知識が不十分な問題に対処し、司法試験合格、ひいては法律実務家として活躍するべく、「自分の頭で考える」能力が必要不可欠です。

 

では、分からない問題に出会ったときに、法律実務家が意識的・無意識的に使っている「自分の頭で考える」方程式について、以下で説明していきます!

分からない問題の例(民法177条の「第三者」と背信的悪意者)

以下の超頻出問題を用いて解説していきます。
正直に言って、ある程度学習が進んだ方であれば、この問題は「分からない問題」ではないですよね。ですが、この問題が「未知の問題」「知識が不十分な問題」であると仮定してみましょう。そのうえで、「自分の頭で考えて」、説得的な解答をする方程式について説明していきます。

『AがBに1000万円で甲建物を売ったが、所有権移転登記を経由していなかった。Bは、その後長い間、甲建物に住んでいた。
その後のある日、Bの知らぬ間に、AはCに対しても1000万円で甲建物を売り、Cは所有権移転登記を具備した。
Cは購入時、「AからBが甲建物を買っていたことは知っていた。しかしBが気に入らない。甲建物をBに1億円(!)で買うよう持ちかけ、買わなければ追い出す嫌がらせ目的で甲建物を買おう」と考えていた。
ほどなくしてCに対する所有権移転登記を知ったBは、Cに対し、(1億円で買い取ることなく、)甲建物の所有権移転登記手続を請求することができるか?』

まず、前置きとして論点までの説明をしていきます。

『BのCに対する所有権移転登記手続請求権が認められるためには、①Bが甲建物を所有していること、②C名義の甲建物の所有権移転登記があることが必要となります。

ここで、AB売買によってBは甲建物の所有権を取得しています。しかし、Bは登記を具備していません。そして、AC売買によってCも甲建物の所有権を取得しており、Cが所有権移転登記を具備した以上、Cが確定的に甲建物の所有権を取得した結果、Bは甲建物を所有していると言えなくなると思われます(①要件不充足)。
もっとも、CはBに対する嫌がらせ目的で甲建物を購入しています。そのため、何らかの理由により、①Bが甲建物を所有していると言えないでしょうか。』

ということで、論点は、CBに対する嫌がらせ目的で甲建物を購入していたことから、Bは甲建物を未だ所有していると言えないか?』という点になります。

(なお、今回は法律論の論点についての検討ですが、当てはめ、ないし事実認定の検討についても、基本的には同様の方程式で検討することになります。)

方程式①結論をでっちあげる

未知の問題・知識が不十分な問題に対しては、まず、結論をでっちあげます。「結論は、直感的にはこうなるべきだろう」と、深く考えずに仮定してみるのです。

結論をでっちあげるときのコツは、事案全体を一歩引いて俯瞰して、「これは一言でいうとどんな事案だろうか」「誰が悪いか」「誰がどんな不利益を負うべきか」「誰が守られるべきか」などということを、自分の持っている基礎知識と比較したり、社会常識に照らしえることです。

 

本問では、

事案全体を一言でいうと、「登記をしなかった脇の甘いBさんに、嫌がらせ目的という悪い考えのCさんが付け入った事案」といえます。

誰が悪いかでいうと、「簡単に登記ができるのにずっと具備していなかったBさんには、かなり落ち度がある。しかし、嫌がらせしようというCさんの方がもっと悪いかな」と考えられます。

これを踏まえて誰がどんな不利益を負うべきかというと、「Cさんには所有権取得を認めるべきではないなぁ」と考えられます。

 

これらを踏まえて、「Bは甲建物を未だに所有している」という結論をでっちあげてみます。

方程式②理由をでっちあげる

結論をでっちあげたら、その結論を支える理由付けと規範、すなわち理由をでっちあげます。
法律の問題に理由をでっちあげるためには、法律の条文に引きつけてでっちあげなければいけません。
ここで、上記論点について、

①知識が十分である場合
②知識が不十分である場合
③未知の問題である場合

の、それぞれの場合について、理由をどうでっちあげていくのかを考えてみましょう。

知識が十分である場合

この場合は、そもそも理解している理由を説得的に書いていくだけとなります。知識が十分な場合の、当てはめも含めた論証はおおむね以下の通りになるでしょう。

 

Cが民法177条の「第三者」に当たらなければ、Bは登記なくしてCに所有権を対抗・主張できるといえます(初学者は無視して結構ですが、民事実務基礎で学ぶ要件事実的に整理すれば、Cが177条の「第三者」に当たらなければ、Cの主張するAC売買・C対抗要件具備によるB所有権喪失の抗弁の効力が障害される結果、Bの所有権が認められると言えます。)。
ここで、「第三者」とは、不動産物権変動について公示するために登記を要することを定め、不動産取引の安全を図るという同条の趣旨にかんがみ、不動産物権変動につき登記の不存在を主張する正当な利益を有する者と考えられます。そして、自由競争原理から悪意者であっても「第三者」に当たるが、自由競争原理を逸脱した取引上の信義則に反する背信的悪意者は、「第三者」に当たらないと考えられます。
本問では、C、BがAから甲建物を購入していたことにつき悪意でした。また、CはBに対して1億円という高値で売り付け、買わなければ追い出すという取引上の信義則に反する内心で甲建物を購入していました。したがって、Cは背信的悪意者であり、「第三者」に当たりません。よって、Bは登記なくしてCに所有権を対抗できます(要件事実的に言えば、Bの主張する背信的悪意者の再抗弁が立つ結果、Bの所有権が認められます。)。

知識が不十分である場合

177条の「第三者」の論点に関する問題であることは分かるものの、論証については知識が不十分であるような場面を想定してみます。

知識が不十分な場合の論証のポイントは2つです。

条文の趣旨をでっちあげる
規範をでっちあげる

になります。

 

条文の趣旨のでっち上げについて。条文の趣旨とは、条文の存在理由と言い換えることができます。すなわち、この条文がなければ、どのような帰結となるか、その不都合性を考えることで、条文の存在理由を考えることとなります。

 

具体例として、177条について。同条がなければ、不動産物権変動については登記等のなんらの公示をしなくても、不動産所有権者は誰に対しても所有権を主張することができることとなってしまいます(帰結)。

すると、不動産の取引をしたい人は、「俺が所有者だ」と言う人が複数いた場合、誰が所有者なのかが一見してわからず、誰が嘘を言っているのか等を、契約書等の証拠や事実関係から詳細に調べないといけなくなります。そして、「この人が所有者かな」と思って取引をしても、のちに別の契約書が他の人から出てくる可能性もゼロではないので、所有者を特定することが極めて困難となります。ひいては、不動産取引を円滑にすることができません不都合性)。そのため、不動産取引変動について第三者に権利を主張するためには登記による公示が必要である、という177条が規定されています。

 

なお、司法試験対策レベルのコツとしては、例えば民法であれば、取引安全、静的安全といった、当該法分野を取り巻く抽象的な原理原則を、具体的事情を拾いながら説明すれば、基本的には一応の合格水準には達します。もっとも、しょせんは付け焼刃ですので、趣旨のでっちあげをする能力を磨く必要は高いでしょう。

次に、規範のでっち上げは、条文の趣旨を前提に、本問の具体的事情を抽象化したフレーズを混じり合わせて自分なりに作成すれば、基本的には一応の合格水準に達します。

また、有名な論点については、判例・通説の理由付けや規範のキーワードを記憶しておくと、論証が説得的、あるいは容易になるでしょう。

 

これらを踏まえると、知識が不十分であっても以下のように論証をすることができます。
177条の「第三者」にCが当たらなければ、Bの所有権が認められると言えるため、問題となる。
この点、同条の趣旨は、(同条がないとどんな不都合が生じるかを考えて)登記による公示がないと、権利者が容易に分からず、不動産取引が円滑にできなくなってしまうことから、登記を対抗要件として不動産の取引安全を図る点にある。
そうであれば、不動産取引を円滑に図らせる必要のない者については、「第三者」に当たらないと解するべきである。
そこで、「第三者」には、(「背信的悪意者」というキーワードを覚えている場合であれば)不動産の取引安全を保護する必要のない、嫌がらせ目的での取引をするような背信的悪意者は含まれないと解する。

といった論証をすれば、基本的には一応の水準には乗ります。

 

(なお、本問の論点は民法を学習した者であれば誰でもが知っている「超」ど典型論点です。そして、相対的評価がされる司法試験においては、上記の論証では規範が判例から離れすぎており、判例の学習が不足していると見られ、一応の合格水準から外れてしまうかもしれません。ですが、通常の典型論点では、この程度の論証ができれば十分合格答案になります。)

未知の問題である場合

この論点を一切知らない、未知の問題である場合に、どのように考えていくべきでしょうか。

まず、何かしらの条文が問題となると考え、問題となりそうな条文を探すこととなります。この際、目次のない本試験用の六法を用いる場合以外では、条文の頭に記載された目次から、見当を立て、問題となりそうな条文を探すこととなります。
(あっさりと書きましたが、ここが一番難しいところです…!問題となりそうな条文を探す能力を身につけるには、普段から条文を引く習慣をつけたり、条文のどこにどのような規定があるかといった体系を把握しておくことが大切です。)

そして、問題となりそうな条文を見つけたら、その条文を読み込み、同条のどの文言が問題となりそうか(あるいは条文の典型例そのままであり、論証としては問題とならないか)を検討します。

その後は、②と同じ方程式になります。すなわち、条文の趣旨をでっちあげ、規範をでっちあげることとなります。

 

余談ですが、法律の学習における基本知識として最重要なものは、各分野ごとの①条文、②その典型例の理解と記憶です。(詳しくはこちらの記事をご参照ください。)
私の通っていた法科大学院の先生は、「論証の暗記は不要です。むしろ、暗記するなら条文ですよ。」と話していました。
未知の問題を検討するには、関連しそうな条文を検討し尽くす必要があります。そのため、検討の材料として、条文の存在やその文言について暗記することは有益である、という意味であると考えられますね。

方程式③反対の結論を設定する

方程式①、②で論点に対する一応の論証はできました。ですが、分からない問題に対しては、論証が説得的であるかをしっかりと検討する必要があります。
結論の妥当性を検討するための最も効果的な方法としては、その結論と反対の結論・理由を設定し、どちらが説得的であるかを比較して検討することになります。

 

そこで、本問でも反対の結論を設定していきます。
先の論証の結論は、「Bは甲建物を未だに所有している」になります。
これの反対の結論は、「Bは甲建物の所有権を喪失している」となります。

方程式④反対の結論を導く理由をでっちあげる

「Bは甲建物の所有権を喪失している」という、反対の結論を導く理由は、どのように考えられるでしょうか。

 

これは、条文の文言をその語義通りに捉えると、「第三者」とは、当事者以外の者であるという読み方が自然ともいえそうです。そのため、Cが「第三者」に当たるといえ、Cが確定的に所有権を取得し、Bは所有権を主張・対抗することができないと考えることができます。

方程式⑤両方の理由のどちらが説得的かを考える

では、どちらがより説得的でしょうか。

論点の論証が説得的であるか否かを検討する際には、

①条文の文言により適合していること
②条文の趣旨により適合していること
③他の法制度との矛盾がないこと
結論が社会一般的に見て妥当であること

などが基準となります。

 

本問では、反対の結論の方が、①条文の文言には適合していると言えそうです。ですが、「第三者」という文言は抽象的であり、解釈の余地を残した規定であると解することができます。その意味では、条文の文言に適合的であるとは必ずしも言えなかったり、あるいは適合することが必ずしも重要なものではないと言えるかもしれません。

そして、最初の結論の方が、②条文の趣旨により適合的であり、④結論が社会一般的に見て妥当と言えます。また、このような解釈をすることが③他の法制度との矛盾を直ちに生じさせることにもならなそうです。

以上をかんがみると、最初の結論、理由の方がより説得的であるといえます。

 

ちなみに、さらに検討を深めるポイントとしては、④結論が社会一般的に見て妥当か否かを考える際に、「事案がどう変われば、結論は変わるだろうか」という視点を持つことが有益です。

本問では、Cが嫌がらせ目的でしたが、仮にCが自分で建物を使いたかったにすぎない場合(背信的悪意者とは言えない)、あるいはCAB間の売買を知らず、BAに無断で勝手に住んでいたと考えていた場合(AB売買について善意)には、Cの落ち度が少ないため、Bが不利益を負うのはやむを得ないとして、結論が変わりそうです。
もっとも、こういった別の事案と比較して、やはり本問ではCがより悪い人であるから、Cが不利益を負う結論は妥当である、と考えることができそうです。

終わりに 分からない問題に立ち向かう実務家の背中を追う

以上が、分からない問題に出会ったときに「自分の頭で考える」ための方程式です。

 

この方程式は、一朝一夕で完璧に使いこなすのは難しいです。受験生時代は、僕も、勉強したはずなのに上手く論証ができない、知識が不十分な問題に出会ったときに、ついつい
この問題の答えは何だっけ?
と考えて、論述例・答案例をあたかも唯一無二の「答え」であるかのように暗記してしまいがちでした。

 

ですが、繰り返しこの自分の頭で考える」訓練をしたおかげで、司法試験に合格できました。また、現在は司法修習において、分からない問題に果敢に考えることができています。

 

ちなみに、司法修習で感心することの一つに、実務家の方々は、この「自分の頭で考える」能力がとても高いことが挙げられます。
ある事件について、僕が「自分の頭で考え」た結論と理由を話します。ですが、指導担当の方々は、僕の思い及ばないような視点から、より説得的な理由とともに別の結論への筋道を示されます。そして、僕は「確かにそう考えた方が説得的だなぁ」と悔しい思いを感じつつ、また「自分の頭で考える」勉強を繰り返しています。
実務家の方々は、社会で様々な未知の問題に取り組み続け、「自分の頭で考える」能力を日々研鑽されているのです。

 

受験生の方々も、はじめのうちは「自分の頭で考える」ことが上手くいかないかもしれません。僕もそうでした。ですが、繰り返すにつれ少しずつ上達します。また、慣れてきますと、無味乾燥な暗記ばかりよりも、ロジカルで刺激的な「自分の頭で考える」ことが楽しくなってくるはずです。ぜひ、頑張ってみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました!