生理学的に証明されている効果的な暗記方法4選

司法試験・予備試験の勉強において、暗記は避けては通れません。
どうせ覚えるなら、効率的に暗記をしたいですよね。
そこで今回は、生理学的に証明されている効果的な暗記方法2つと、それを満たす具体的な勉強方法4選を紹介します。
加えて、なぜ効率的な暗記方法と言えるのかを深く理解したい方に向けて、記憶に関連する脳のしくみを詳述しました。効果的な暗記方法を、脳のしくみから深く理解して腑に落としたい方は、とっても興味深い脳のしくみのお話まで、ぜひぜひお付き合いください。

効果的な暗記方法①繰り返し学習

司法試験の学習でいう暗記とは、理解を伴う長期的な記憶を指します。当然ですが、理解のない字面だけの丸暗記ではありませんし、理解のない暗記は意味はありません。理解のしくみについては当方別記事をご参照ください。

一つ目、同じ情報に繰り返し触れることが、暗記には効果的です。

「同じものを繰り返すのは退屈……」

「新しい知識を学ぶ方が楽しいのにっ!」

と思う方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、同じ情報に繰り返し触れるという一見退屈な作業を愚直に繰り返すことが、記憶の定着には重要なのです。

生理学的エビデンスをざっくり話すと……(後半の「記憶のしくみ」を読んだ上で戻ってくると理解しやすいです)
脳を構成する神経細胞=ニューロンの接続部であるシナプスの受容体を固定したり、シナプスの数を増やして情報の伝達効率を高めることをを支えるタンパク質は、脳に繰り返し刺激を与えることで生じることが、マウスやアメフラシ、ショウジョウバエ等を用いて脳の神経細胞であるニューロンを観察(!)した実験でわかっています。したがって、記憶の回路を強化・形成して暗記をするため、繰り返し学習が効果的といえます。

効率的な暗記方法②感情を動かす

二つ目。感情の動きを伴う学習は、記憶に残りやすいです。

旅行先の出来事であったり、楽しかった体験は、思い出としていつまでも覚えていること、ありますよね。

あるいは、怖かった体験もそうでしょう。初めてジェットコースターに乗った恐怖は、いつまで経っても思い出せるものです。

一方で、刺激のない退屈と感じる学習は記憶の定着に向きません。退屈な先生の授業は、いくら受けていても内容が頭に入ってこないのと同じです。

意外と見落としがちですが、感情が大きく動いた出来事に関しては、人は一瞬でも強く記憶をするのです。

生理学的エビデンスとしては、ざっくり話すと……
感情の発生を司る脳の一部位である扁桃体(海馬と隣接しています。無料画像が見つからなかったため、位置が気になる方は「扁桃体」と検索してみてください)が活性化すると、大脳皮質や海馬へ電気信号を送り、それぞれの情報処理を促進させることが、実験動物を用いた実験によりわかっています。また、MRIで偏桃体が活性化しているときの記憶がより強く定着するという実験結果があります。そのため、感情が動いた際の情報は長期記憶しやすいといえます。
なお、これは恐怖を感じた時の記憶を鮮明に残し、その後、危険を回避して生命を保護することを可能とする生物的構造が原因と解されています。
そのため、感情を動かす学習が、暗記には効果的といえます。

 

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あれ?

「さっきは①で退屈な繰り返しが記憶にいいって言ったのに、今度は②で感情が大きく動く学習が良いという。それって矛盾してない?

と思うかもしれません。

確かに、両者は一見して矛盾しています。

実は、退屈な繰り返し学習と、感情が動く刺激的な学習を矛盾なく取り入れるには、工夫が必要なのです。
そこで、具体的なおススメの勉強方法を、以下に紹介していきます。

記憶定着がはかどるおススメ学習法4厳選!

①「楽しく」復習する

繰り返し学習を退屈でなくすためには、楽しく復習をしましょう。以下に楽しく復習するための具体例を紹介しましたので、自分に合いそうなものから是非参考にしてみてください。

  • 問題演習をする

同じ情報に触れるにせよ、基本書を使い学んだら、次は問題演習に触れます。そうすることで、同じ情報を違った角度から学ぶことができ、退屈な印象が薄れます

  • 時間制限をして焦る

時間を決めずに漫然と復習をしていても退屈なだけ。あえて厳しい時間制限をかけて、その中でどこまで学べるかと脳に負荷をかけゲーム感覚でやってみます。すると、短い時間で頭をフル回転させて、焦る中で触れた情報は、記憶定着がしやすくなります。

  • 初めは興味のある分野に絞って復習する

法律の勉強って、「初学者殺し」なんて言われ、法全体を知らないと理解しにくい点が少なくありません。そのため、はじめから完璧に全て理解・記憶しようとしても非効率的。
初めは学んだところのうち、「面白いな」「ここはよくわかった気がすると感じた部分に絞って集中して復習する方が、記憶定着の観点から良いでしょう。

  • 暗記対象から「目を離して」暗唱する・書き写す

暗記の基本は、「暗記カード(暗記本)」の利用です。覚えるものだけをまとめたカード集やノート、本を繰り返し読んだり書き写したりする学習法は、誰でも一度はやったことがあるでしょう。

大切なのは、読んだり書き写したりする際に、一度記憶対象から「目を離す」こと。そうすることで、思い出して暗唱したり、書き写そうとしても一言一句が気になり、「あれ、なんだっけなぁ」と悩みが生じ、感情を動かしつつながらの記憶作業をすることができます。
記憶対象を見続けながら音読したり写経したりしていた方は、一度「目を離して」、思い出そうとしてみてください。

なお、このような暗記カード(暗記本)の利用は、手軽でいつでもどこでもできるのがメリット。電車の移動時間や入浴中等、無理のない範囲で習慣化するのもおススメです。

  • 自分に合った頻度、回数を探る

結局のところ、記憶定着にかかる頻度や回数は人それぞれです。これをやれば必ず覚えられる!なんてものはなく、自分の脳の性質を理解して、どのくらい復習をするかを分析していくことが大切です。

ちなみに、復習の頻度・回数として一般におススメされるのが、「スイッチフルバック法」と呼ばれる復習方法。
これは、学習を一歩一歩進めていても、復習を毎回初めまで「バック」して、今やっているところを含めてすべて復習するという学習法です。

例えば、講義が100回あるとします。
最初の1~3回を受けた後、1~3を復習
次に4~6回を受けた後、~6を復習
続いて7~9回を受けた後、また初めから~9を復習します。

「全部復習するのは時間がかかりすぎて大変!」と思うかもしれません。
ですが、何度も重ねて復習をした部分は、長期記憶に移行しているため、内容を思い出しやすく復習が短時間で済みます。例えば、1回目の復習では1時間かかっても、2回目の復習では10分、3回目以降は1分と(メリハリをつければ)非常に短時間で全範囲の復習をすることができ、効率的です。
また、短期間で繰り返し復習をすると、忘れる前に復習ができるため、間を空けての復習よりも記憶の定着がしやすく感じます
そのため、「スイッチフルバック法」は、個人的にもおススメです。僕は、前回と前々回学んだ内容について、10分、1分ずつでも戻って復習をしていました。

②「考え抜いて」間違える

記憶の定着に欠かせないのは、問題演習です。問題を解く中で、「どの条文を適用すればいいんだ!?」「この要件はどのように考えればいいんだ……?」「考え漏れがある気がするけど、何が問題か分からない……」と頭をひねり尽くして考え抜いた末に学んだ解説等は、とても腑に落ちて記憶に定着します。

ココでのポイントは、「考え抜く」こと。分からない問題に対して「答えを見て、暗記すればいいんだ」と考え抜かずにすぐに答えを見る学習方法はNGです。
これでは、未知や理解の不十分な問題に対処する思考力が身につかないのみならず、感情が動かない学習になっていて、返って「暗記」すらできない結果になってしまいます。

分からない問題について考え抜く思考力を身に着けたい方にはこちらの記事が参考になります。

③「恥ずかしいけれど」質問する

質問するって、勇気がいりますよね。

「こんなレベルの低い質問をしていいのかな……」
「呆れられたらどうしよう……」

ですが、その恥ずかしい気持ちを振り切り、勇気を振り絞って質問をした結果は、当時の緊張感や、腑に落ちた喜びと共に記憶にとても強く残ります

大学や大学院、予備校の通学クラスに所属していて質問ができる環境にある方は、是非積極的に質問をしてみてください。
また、今でしたらネットを通じて様々な方に質問ができる時代です。分からないところ等を、失礼の内容に投げかけてみてもいいでしょう。

ちなみに、僕なんかが質問を受けた時に抱く感想は、こんな感じです。

④深く理解して「感動する」

法律学は奥が深いです。背景には感動するような精緻な理論や、それに挑戦する学者の思考の軌跡が存在します。理論を深く学ぶことで「感動」できる、まさに、学べば学ぶほど味が出る、スルメのような学問(!)でしょう。

そんな法律学の面白さを一切無視した、理解のないままの、フレーズの丸暗記ではもったいないですし、記憶の定着からも問題があります。

フレーズ1つ覚えるにせよ、

  • どういう経緯でこの規範、理由付け、条文が生まれたのか(条文の趣旨等)
  • どういう具体例の際に使うべきフレーズか
  • このフレーズの問題点はどこか

等、基礎基本から深く掘り下げて理解して、「なるほどなぁ!」と感動するような学習を心がけてみましょう。
これは一見、時間がかかり遠回りに見えます。ですが、長期的に見て記憶の定着にも役立ちますし、司法試験合格者をはじめとする法律に社会で深くかかわるすべての方は(たとえ受験指導校の利用をしていたとしても)、この過程を経ているはずです。

記憶のしくみ

後半では、記憶のしくみについて詳述しますね。

記憶とは、過去に学び、経験した情報を覚えていることをいいます。情報の記憶は、身体のうち、脳で行われます。脳は記憶のほか、五感を感じたり、思考したり、感情・欲求を生じさせる部位です。

脳のこれらの機能が、脳内でどのように生じているかを見ていきましょう。

脳は主に五感や思考、感情、記憶等を作り出す神経細胞(「ニューロン」と呼ばれます)と、その働きを支えるグリア細胞からなります。


(ニューロンのイメージ)

ニューロンは100億~1000億個存在し、それぞれが他のニューロンと約1000個の結合をしています。ニューロンの接続部は「シナプス」と呼ばれており、シナプスの結合は実に100兆個程度あるそう。天文学的数字ですね……!

脳での情報処理のされ方について。
五感等を通じた刺激が脳内に達すると、ニューロン内で電気信号が発生し、結合している他のニューロンに向かって、シナプスにおいて様々な神経伝達物質を送ります。この、電気信号と神経伝達物質によって、脳の各部位に刺激ないし情報が移動していくのです。


(電気信号のイメージ)

そして、脳の各部位は、送られてきた情報に対して、

・さらに別の部位に情報を送り返す
・特定のニューロンやシナプスの数を増やす
・シナプスにおける信号の伝達効率を高める

といった反応をします。

その結果、感情・欲求・思考・記憶といった、脳の所有者自身が認識できる生理的反応が作り出されます

暗記している時の脳の状態

情報の暗記がされるとき、脳はどのような反応をしているのでしょう。

情報は、大脳皮質の感覚野に送られて思考の処理がなされた後、脳の一部位である海馬に集められ、一時的に記憶がされます短期記憶)。


(海馬のイメージ:色掛け部分のうち細長い部分が海馬)

ここで、情報の記憶を長期化するか選別します。長期的に記憶する情報については、海馬から再び大脳皮質に電気信号・神経伝達物質が送られます。これにより、脳内で特定の電気信号の伝道効率が高まる等して、記憶は長期的に維持されるようになります(長期記憶)。

では逆に、短期記憶が長期記憶にならず、情報を忘れているときの、脳の状態はどうなっているかというと…

・思い出すことができないだけで、脳内に記録された状態(特定の記憶構造はできているものの、電気信号が通りにくくなった状態)
・情報が一切消えている状態(ニューロン同士の神経応答がなくなってしまった状態)

と、様々な説があります。せっかく学習したのに、記憶しないと情報が一切消えてしまう、というのは何とももったいない……!

以上、この記憶のしくみを前提に、上述の生理学的エビデンスについて、改めて読み返してみてください。
①繰り返し学習と、②感情を動かす学習が、効率的な暗記方法であることが深く腑に落ちると思います!

終わりに~記憶のしくみがわかって初めて実践できる

最後に私事となり恐縮ですが、僕は勉強については、誰よりもはひねくれもので、怠けものでした。小さいころから、

「宿題は必ず提出ですよ」
「復習をしっかりやりなさい」

と言われても(そして、いくら怒られても)、宿題や復習はほとんどしてませんでした。
勉強でやることと言えば、定期試験の直前期に詰め込むだけの学習だけ。当然、良い成績なんて取れません。

ですが、これでは到底司法試験になんか受かりません。そこで、色んな本を読み、実践したり創意工夫していく中で、記憶術を理解するとともに、自分なりの勉強方法を確立してきました。

そんな僕が、今になって思うのは、幼いころから記憶のしくみを教えてもらえれば、「なるほど。それでは復習をするしかないな」と実践し、もっと効率的に学習ができていたのではないかということ(お見苦しい後悔ですが……!)。そのため、同じような考えを抱く方の支えになるといいと思って、この記事を書きました。

優等生な方々は、記憶のしくみなんぞ詳細に説明されなくとも、勉強方法のアドバイスを素直に受けたらすぐに実践し、その効果を体感し、効率的な勉強が身についていることでしょう。
そういった方々には、無駄に冗長な内容と感じるかもしれません。

この記事を読んで記憶のしくみを少しでも理解できたら嬉しいです。
そして、自分に合った効率的な学習方法を、この記事の内容を取り組んみながら確立していただければこの上なく幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました!

参考文献

岩田誠監修「プロが教える脳のすべてがわかる本」2011年・ナツメ社(カラー図がたくさんあり、初学者でもわかりやすいです!)
ラリー・R・スクワイア、エリック・R・カンデル「記憶のしくみ上・脳の認知と記憶システム」2013年・講談社BLUEBACKS(専門用語が多く難しいですが、知的好奇心をくすぐります!)
ラリー・R・スクワイア、エリック・R・カンデル「記憶のしくみ下・脳の記憶貯蔵のメカニズム」2013年・講談社BLUEBACKS