【論文合格①・目標の細分化】司法試験・予備試験の合格に必要な能力とは

前回に引き続き、「目標の細分化」のお話です。
受験生お待ちかね、論文式試験の合格に必要な能力について、具体的に説明します。
何度でも言います。「すべての司法試験受験生必読の内容」です。ぶっちゃけ、この内容は、話すだけでいくらでもお金取れるレベルになっています。ですが、ここでは無料で配信しています。そして、今後も有料化することはありません。ご安心を。
内容が長くなってしましました。そのため、初めは概要をさらう形で、その後何度も読み返して、エッセンスを吸収してください!

目標の細分化とは 論文式試験に必要な能力

繰り返しになりますが、目標の細分化とは、「達成目標を能力ベースに引き直す」ことを言います。

すなわち、「目標を達成するために、必要な能力(細分化目標とも呼びます)は何か?」と考え、それを整理することを言います。

この、目標の細分化の後に、必要な「能力」を身につけるための「手段」を考えることになります。

目標の細分化の具体例として、司法試験・予備試験の論文式試験合格という「達成目標」に必要な「能力」について考えてみます(分析方法については、後日解説します。)。

僕が分析した結果はこうです。

①記述力
②問題分析力
③基礎力
④応用的思考力
⑤合格レベル把握力

そして、これらの能力の概要は、以下の通り。

具体的内容について、詳述していきますね。今回は「1.記述力」を説明します。

1.記述力

記述力は、法律知識とは別に要求される能力です。内容は5つに大別できます。それは、

①法的三段論法に沿って、法律文書を書く力
②答案の枠組みを理解・記憶する力
③答案構成をする力
④問題や配点に応じて、書く時間と量を決める力
⑤必要な分量を書き切るスピード力

です。以下、根拠や具体的内容について一つ一つ解説していきます。

①法的三段論法に沿って、法律文書を書く力

法的三段論法とは、一言で言えば、説得の道具です。

三段論法という、演繹的な説明により客観的結論を証明する論法があります。
よくある具体例として、

1人は死ぬ。(大前提:客観的なルール)
2ソクラテスは人である。(小前提:具体的な事実の当てはめ)
3ソクラテスは死ぬ。(結論)

と示されます。

これは、3ソクラテスは死ぬ、という結論を、客観的に証明する論法です。

一方、法的三段論法は、この枠組みを利用して、自分の主張する結論を説得的に論じる手法です。
憲法の人権保障を例にとると、

1思想を外部に表明し他者に伝達する自由は、21条の表現の自由で保障される。(大前提:法規範とその解釈
2Xさんの本件発言は、Xの思想を外部に表明し他者に伝達する行為といえる。(小前提:事実の評価と当てはめ
3Xさんの本件発言をする自由は、21条で保障される。(結論

これは、3の「Xさんの本件発言をする自由は、21条で保障される」という結論を、説得的に論じる手法です。なお、1で法規範の解釈、2で事実の評価をしており、ここには主観が介入するため、客観的に証明がされているわけではありません。

法律は説得の学問と呼ばれます。そのため、法律文書を書く能力が問われる答案には、説得力のある文章、すなわち法的三段論法に基づく文章を書くことが不可欠です。

なお、法的三段論法に基づく記述力を、答案を書く前に身につけることは難しいです。そのため、法的三段論法や、答案の枠組みを身につける前から、グチャグチャでもいいので答案を書きましょう。そこで、これらの能力を身につけることになります。
僕は、論理的思考が得意なので、比較的すぐに法的三段論法や、後述する答案の枠組みの理解・記憶を身につけることができました。とは言っても、これを身につけることだけに特化して、答案を書き写す等、様々な創意工夫をしました。
法的三段論法、答案の枠組みを身につけて、それらを徹底した答案を書くことは、それだけで学習の進んでいない人と差をつけることができます。実際、一橋大学法科大学院に入っても、法的三段論法を用いない、説得力の欠ける答案を散見しました。
ぜひ、法的三段論法に沿って答案を書く力、これをを伸ばす意識を持った学習を心がけてください。具体的な身につけ方、「手段」については、「効率的な手段」の回で詳述します。

②答案の枠組みを理解・記憶する力

答案には、あらかじめ一定の枠組みが存在します。答案の枠を身につけるべき理由は大きく二つあります。

一つは、読みやすいです。

答案の枠組みは、答案作成者・採点者の共有する、あるべき答案としてのルールです。(英語におけるSVCとか、SVOOとか、そう言った語順のルールがあるのと同じです。)
枠組みに沿った文章は、同じルールに基づいて採点している採点者にとって、文章の流れの予測可能性が生じます。そのため、相手にとって読みやすい文章となるのです。
確かに、枠組みに沿わなくても、読み手は理解ができます。それは、英単語を並べていれば、文法はごちゃごちゃでも、アメリカ人に一応の意味が伝わるのと同じです。
ですが、採点者にとっては、理解するのがスピーディーにできません。

そこで、読みやすい文章を書く前提として、答案の枠組みの理解・記憶が必要になります

二つ目は、答案の枠組みに沿って問題を考えることで、効率的な問題分析が可能になる点にあります。

答案の枠組みは、先人が、分かりやすく、かつ説得的で分析に漏れのない文章を書くために作りあげた道具です。そのため、この枠組みは、同時に、問題を分析するためのチェックシートにもなります。
答案の枠組みに沿って、「この枠には何を入れるか」と考えていくことで、問題を漏れなく、効率的に分析することができます。(こういった、枠組みに沿って物事を分析する手法を、一般的にはフレームワーク思考と言います。5W1Hに沿って考えるとか、PDCAサイクルに当てはめて考えるとか、そう言った類のものも、フレームワーク思考です。手前味噌ですが、「苦悩脱出の参考書」で出てくる苦悩脱出表を用いて、悩みを整理することも、非常に有効なフレームワーク思考になります。)

一方で、答案の枠組みから離れていたずらに思考しても、漏れが出たり、時間がかかってしまいかねません。

枠組みに沿った思考をするために、枠組みの理解と記憶が不可欠です。

答案の枠組みの例で言えば、
憲法の自由権であれば、「保障・制約・正当化」の枠組みがあります。
それぞれ、どの枠組みの中で、どのようなことを検討するか・なぜこの枠組みで検討するのかを整理・理解して記憶しましょう。

枠組み思考ができていないことにより、陥りやすい失敗は、

「自分でもよく分からないことを書いてしまった。なんでこんなことを考えて、書いたのか分からない。」

というものです。
枠組み思考を徹底していなかったり、枠組みの中で何を検討すべきかがわかっていないと、枠組みから離れてその時の自分の自由な思考に任せて、考えて、書いてしまうのです。
枠組み思考を徹底すれば、書かないでいいことを書いたり、考えないでいいことを考えることがなくなります
余計なことを書いたり、考えた場合には、答案の枠組みの理解や、枠組みに基づいた思考ができていないかどうか確認してください。

③答案構成をする力

答案を書く前段階として、③答案構成をする力が必要です。答案構成とは、答案作成をスムーズに行えるようにするための下書きをすることを言います。
答案構成は答案ではないので、必要最小限の分量で書くことが必要です。ですが、初めのうちは、答案の枠組みを記憶していなかったり、論証の規範や理由付けを構成の段階で丁寧に記述しておかないと答案作成がスムーズにできない、ということが考えられます。
そこで、初めのうちは、答案構成の分量が多くなっても構わない、と割り切りましょう。そして、長い答案構成を書きながら、まずは、①法的三段論法や、②答案の枠組みの理解・記憶をしてください。それらがある程度進んだら、徐々に時間制限をしながら、適切に分量を減らしていきましょう。

④問題や配点に応じて、書く時間と量を決める力

そして、答案作成の段階では、④問題や配点に応じて、書く時間と量を決める力と、⑤必要な分量を書き切るスピード力が必要です。

まず、④時間を決め、内容の取捨選択する力について。
論文式試験では、問題ごとに、採点者が解答を望むメイン論点がいくつかあります。ですが、その周辺にも、論じることができる事情は多くあります。論じることができる事情を全て最大限丁寧に論じると、科目によっては(特に、憲法・商法)、書き切ることは困難となります。そのため、問題の量や、配点割合に応じて、あらかじめ書く時間と量を決める力が必要です。

具体的には、司法試験であれば「この問題の配点は全体の20%とあるから、1ページ強で、24分以内で解こう答案構成は8分、答案作成は16分で解こう。」と決めます。
そして、その時間内で書ける分量に絞って、書く内容を取捨選択しながら答案構成をして、答案の作成をしていくことになります。

ここでは、決めた時間と量に従って内容を取捨選択し、メリハリをつけた答案を書く能力も求められます。内容の取捨選択については、次回「問題分析力」にて詳述します。

⑤必要な分量を書き切るスピード力

次に、⑤書き切るスピード力について。
予備試験は1問あたり70分、司法試験は1問あたり120分です。そして、人にもよりますが、答案構成にかかる時間は、最終的に、予備試験は15~25分、司法試験は25~40程度です。したがって、答案作成にかけることができる時間は、予備試験は55~45分、司法試験は95~80です。
次に、答案用紙のページ数は予備試験は4ページ、司法試験は8ページです。そして、現実的に書く分量は、これも人や科目によりますが、だいたい予備試験は2ページ半〜4ページ弱司法試験は5ページ弱〜7ページ強程度です。
以上から、答案作成で1ページあたりにかけられる時間は、12分〜18程度と言えます。
さらに細かく見ると、予備試験の答案用紙は22行、司法試験の答案用紙は23行です。そのため、半ページあたり6~9分、1行あたり30~42程で書くことが必要です。
書きながら手が止まる場面を想定すれば、1行あたり30秒程度で文章が書ける能力は、不可欠です。
そして、これを実現するためには、基礎知識については手を止めることなくスラスラと書くことができなければいけません
なお、スラスラ書いても汚い字では読み取れないので意味がありません。文章は丁寧に書く必要があります。具体的には、「大きく、繋げ字・略字なく、文字の間を詰めすぎずに」書く能力が必要です。

したがって、時間内に適切な分量を書くために、書くスピードを上げ、かつ、基礎知識について、スラスラ書く能力を身につけなければいけません。

では、⑤書き切るスピード力ですが、これを身につけることは、他の能力よりも時間がかかります
これを身につけるには、地道な努力の繰り返しが必要です。答案練習の時間を作って、時間を計り、書く。また、基礎知識の理解と記憶を徹底する。こういった学習を各科目ごとに10回〜数十回繰り返して、初めて身につきます。
そのため、問題ごとに書く時間と量を決めたとしても(④)、初めのうちは、その時間内に書き切ることはできません。
そこで、学習の初めのうちは、⑤スピード力、特に、基礎知識についてスラスラ書く力は、さほど意識しないで答案を書くことが望ましいです。
それよりも、記述力については①法的三段論法の徹底や②答案の枠組みの理解と記憶を意識した学習を心がけてください

記述力と法律知識を分けて身につける

以上の記述力ですが、読んでおわかりの通り、これを身につける上で法的知識はほぼ不要です(答案枠組みの理解、基礎知識をスラスラ書く力は別ですが。)。そのため、法律学習が進んでいなくても、身につけることが可能です。

逆に言うと、記述力は、主として法律知識が関連する、問題分析力・基礎力・応用的思考力とは別に必要となります。

ここが大変辛いポイントです。論文式試験の初学者は、論文問題を通じて法律知識を身につけると同時に、この記述力をも身につけなければいけません
そして、これは同時並行で身につけるのは困難です。

そのため、初めのうちは、記述力は、法律知識とは切り離して身につける意識を持ってください。
すなわち、同じ問題を用いて、法律知識を学習する時間と、記述力を伸ばす時間を別にとってください。同じ問題をその場で最低2周、別角度から学ぶイメージです。

また、記述力を身につける際には、難しい問題を用いる必要はありません。簡単な問題や、難しい問題の一部分を抜き出し、その問題や答案例を利用して、独立して身につけてください。

次回予告 問題分析力について

今回はここまでです。ここで理解したことは、ぜひ今から学習に活かしてくださいね。

次回は、論文式試験に必要な能力2「問題分析力」について説明します。
実は「問題分析」については論文の学習が進んでいる人からも、質問が多くくるところです。読んで学習の指針にしてください。お楽しみに!